今回はサツマイモ苗の仕立てから植え付けまでのポイントを説明します。
苗の植え付け時期から逆算して、準備をしていきましょう。
本記事を読んでいただければ、ホームセンターで売られているシナシナの苗は大丈夫かなぁという不安も解決!できます。
まだ栽培する品種を決めていないかたはこちらの記事もどうぞ
サツマイモの栽培時期
まず関東では5月から6月が苗の植え付けのシーズンとなります。
具体的な環境としては、土の中の温度(土の表面の5㎝下)が20℃以上30℃以下になるような環境が、発根を促します。
地温を上昇させるには黒マルチ、地温を下げるには白黒ダブルマルチを使用しますが、基本的には黒マルチの利用が一般的です。
土づくりの注意点
詳しくは他のサイトや本に譲りますが、重要ポイントを列挙します。
- 土壌pHは5.0から6.0程度でOKなので石灰を入れ過ぎない
- イモを4トン収穫した時(大大大豊作)の養分吸収量はチッソ・リン酸・カリで14㎏- 6.4㎏- 35㎏/10aとなるのでカリ中心の肥料設計にする
- チッソは生育後半に切れないと食味の低下につながるので、前作の作物の肥料が土に残っていそうなときは元肥で3~6㎏/10a程度でも大丈夫
このあたりを押さえておけば大丈夫です。特にチッソが多いと蔓ボケ(葉や茎が茂ってイモが大きくならない)しやすいので、そこは頭に入れておきましょう。
良い苗を育てるには?
話が前後しますが、苗をご自分で仕立てる場合は、植え付け時期から逆算して準備を始めます。
そうすると関東では3月後半から4月頃ということになりますね。
4月頃だとまだ遅霜の危険性も十分にありますので、温床の設備やハウスを持っている方は種イモから苗採りすることもできますし、そうでない場合は
ポット苗(採穂用親株)からの苗採りがおすすめです。ホームセンター等で売っています。
種イモから苗採りする場合は200gから300gほどのイモを使い、萌芽(芽が出る)適温の30℃を目安にして伏せ込み、かん水します。
すると1週間程度で萌芽してきます。
萌芽した後は昼間20から25℃、夜間は15℃で管理します。
苗採り用ポット苗(採穂用親株)の場合も定植後同様の温度管理をします。
1か月ほどで萌芽が生え揃ってくるので、その後は1週間ほどは保温せず、外の気温に慣らし、節間の詰まった苗にしていきます。
採苗
長さ25㎝~30㎝、節数が6~8節(=葉の枚数)になるようにハサミで苗を切っていきます。大量に採る場合は30㎝に切った(ばか)棒を用意して、同じ長さに切っていきます。
良い苗とは?
サツマイモの場合植え付けた後、発根してくるまでの10日間ほどは、苗に蓄えられた養分で生き延びなければなりません。
そのため、養分の主な供給源になる葉(葉身)がしっかりと付いていて、茎が太く、節間が詰まっているものが良い苗となります。
また、葉に蓄えられている養分(炭水化物)量は1日のうちで、朝に最も少なくなり、午後に増加するので、晴れた日の午後に採るとなお良しです。
取り置き
一般的なホームセンターに売られている苗はかなり萎びていると思いますが、苗を採った後数日置いておくことで、苗の活着とサツマイモになる根への分化が促されます。
期間は、試験的には最長10日位まで(下位葉が枯死しない程度)となっていますが(Nakatani et al., 1987)、自家苗の場合には、採苗後1度萎びさせてから水に戻し、翌日植え付けする方法が行われています。
植え付け
植え付け方法は、
- 水平挿しや船底植えと呼ばれる地面と水平に植える方法(上図左)
- 斜め挿し(上図右)
の2つが主流です。
水平挿し
1の水平挿しは、中ぐらいのサイズのイモが各節に付く特徴があります。
イモの揃いを重視するならばこの植え方がおススメです。短所としては、地表面近くの浅いところに植えるので土が乾くと活着に失敗しやすいことが挙げられます。
斜め挿し
2の斜め挿しは、なんと言っても植えやすいことが特徴です。
移植ゴテ(園芸用の小さなスコップ)などを斜めに差し込み、その背側にイモ苗も差し入れ、移植ゴテを引き抜き、軽く土を押さえて完了です。欠点としては、土の深いところの節に付いたイモはサイズが小さくなることが挙げられます。
栽培学の先生曰く、「サツマイモは土の中の酸素量が少ないとイモが小さくなるので、高畝にする(空気にふれる表面積を増やす)ことでも収量が30%上がる」とのことです。
植え付け後枯れる場合
サツマイモの場合、苗を植え付け後10日ぐらいしてから発根してくるので、いかにこの根がない期間を乗り切るかが重要となります。
もし、植え付け後に苗が枯れた場合は、畝の中の水分が不足していること、もしくは地温が16℃以下もしくは30℃以上であることが考えられます。
そうなった場合の対処として、植え付け後に水をあげる場合は、マルチの上に水たまりができないようにします。水が蒸発するときに、苗と接触している部分が焼けやすくなるからです。
マルチを利用する場合、雨が降って数日以内に展張し、土壌中の水分を逃がさないようにすることが重要になります。
加えて、黒マルチを利用する場合、晴天時にマルチ表面が熱くなり接触している部分が焼けることがあるので注意が必要です。
稲わらなどを添えておくと焼け防止対策になります。
終わりに
定植した苗は活着後、サツマイモになる根と栄養吸収のための根に分かれます。
定植後50日頃までには、サツマイモになる根の本数が決定し、根の伸長(縦伸び)がほぼ完了します(佐々木 et al. 2004)。そして縦伸びが終わった後に、だんだんと肥大し収穫となります。
よってイモの長さや本数が決まる生育初期は、特に重要となります。
そのため掘り出したときにイモが短かったり、数が少ないときは、生育初期の環境に問題があった可能性を振り返ってみてください。
参考文献:
NAKATANI Makoto, Atsushi OYANAGI, and Yasushi Watanabe. 1987. “Holding of Cut-Sprouts in Sweet Potato (Ipomoea batatas Lam.).” Japan. Jour. Crop Sci. 56 (2): 238–43.
中谷誠. 1987. “採苗と活着促進.” In 農業技術大系 作物編 第5巻, 追録第9号, 技52‐技55. 農山漁村文化協会.
佐々木秀, 津曲雄治, 西原英典, and 下田代智英. 2004. “カンショの塊根の肥大と形状の成立要因 塊根形状の異なる2品種の比較.” 日本作物学会記事 73 (1): 65–70.
屋敷隆志. 1987. “関東・普通栽培.” In 農業技術大系 作物編 第5巻, 追録第9号, 技87-技100. 農山漁村文化協会.
飯塚隆治. 1987. “2. 土壌環境と生育.” In 農業技術大系 作物編第5巻, 追録第9号, 技27‐技29. 農山漁村文化協会.
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