毎日暑いですねー。
ハウスの中が暑すぎて、脳みそがとろけそうです。
さて今回は、カボチャの人工受粉、収穫タイミング、そしてその後の保存(キュアリング)についてです。
甘いカボチャを収穫するポイント、食べ時を解説していきますね!
同じカボチャの仲間、ズッキーニの人工受粉の方法はこちらから
カボチャの雌花と雄花
カボチャは他のウリ科野菜のキュウリ、ズッキーニ(カボチャの一種)と同じく、雌雄同株異花の植物です。なので、雌花と雄花が別々の花として、1つの株の中に存在します。
花の下に丸いのがついているのが雌花で(写真左)、何もついていないのが雄花です(写真右)。
この雌花と雄花が同日に咲いて、受粉が成功しないと実が成りません。
受粉が失敗すると開花後5、6日目頃に腐ってしまいます。
カボチャの人工受粉の方法
そこで必要になるのが人工受粉です。
訪花昆虫がたくさんいて、雄花もたくさん咲いていれば、虫が受粉作業をしてくれますが、なかなかそうはいきませんので、人工受粉をしていきましょう。
方法は、以前ご紹介したズッキーニと同様です。
当日開花した雄花を取って、花粉が付けやすいように、花びらを剥がします。
そして雄花の葯で雌花の柱頭をやさしくタッチして花粉をのせていきます。
上述したように、この作業自体は、ズッキーニと同様ですが、カボチャの場合は1つポイントがあります。
それは、花粉をかけ過ぎないことです。
ある程度花粉がかけられたと思ったら、そこでストップしてください。
花粉をたくさんかけなくても、カボチャの実の重さ、果肉の厚さには影響しません(広瀬 1947)。
それどころか、受粉時の花粉の量が少ないほうが、でんぷん量、全糖量が上がります(広瀬 1947)。
でんぷんは収穫後、貯蔵している間に糖に変わりますから、大切です。
人工受粉のタイミング
果実の結果率は明け方4時頃が最高になるので、人工受粉は早朝行うようにします。
時間が経過するほど花粉の発芽力が落ちていくので、8時ごろまでには交配を終えておきたいところです。
ズッキーニの人工受粉方法の記事の繰り返しになりますが、理由は以下の通りです。
雄花の花粉は開花前日の昼過ぎから発芽力を持ち始めますが、この時点では開花はおろか葯が裂開していませんので、まだ実用的ではありません。
葯の裂開(花粉の露出)は、開花前日の19時頃から始まり、裂開の完了は21時過ぎ頃で、その頃から急激に花粉の発芽力が高まり、ピークは開花当日の0時頃になります。その後緩やかに発芽力は弱まっていき開花当日の9時頃には発芽力を失います(早瀬 1956)。
雌花はというと、雄花から遅れて、明け方の4時頃が結果率のピークになります。(児玉 1939)。
加えて、花が開花するのも明け方4時頃からです(時期によって早まります)。
雄花の花粉のピークは0時だからと言って、1時や2時に人工受粉しても結果率は高くありませんので、張り切りすぎに注意してください。
雄花が咲かないときは?
雄花がないときはこれを使います。
アークランド液剤(1-ナフタレン酢酸:植物ホルモン剤)です。
これを10から40倍に水で薄めて、霧吹きで、花(柱頭)をめがけて霧吹きでスプレーします。1プッシュでOKです。
こちらを使う場合は、雌花の開花前日の18時以降くらいから開花日の午前中くらいまで使えるので、人工受粉の時のように開花日の朝早くにやる必要がないメリットがあります(森 1947)。
加えて、種が入らないので、種が入る部分の空洞が小さくなり肉厚になります(森 1943)。
ちなみに食味は変わりません。
その一方で、果実の肥大が遅く、最終的な大きさも花粉を用いたものよりもやや小さくなるデメリットがありますが(萩原, 1943)、せっかくの雌花ですのでトライしてみてはと思います。
雨で花が濡れたときは?
雨で雌花の柱頭や花粉が濡れてしまったときは、人工受粉+アークランド液剤(10倍希釈)を併用します。
収穫目安は?
受粉まで完了すると、次に出てくる問題は、いつ収穫できるのか?という疑問ではないでしょうか。
えびすカボチャの場合、果実は受粉後およそ25日目まで肥大が続きますが、その後はサイズが変わらなくなります(長尾 1995)。
しかしながら、果実のサイズが大きくならなくなったと思っても、受粉後25日目頃ではまだ果実が若いです。
そこで収穫の目安になっているのが、開花(受粉)してからの日数です。
開花(受粉)後40日‐45日
これが収穫の目安です。
ですので、受粉した時の日にちをラベルに書いておくと、収穫日を迷わなくて済みます。
受粉後40日というのは、でんぷん含量の増加と、含水量の減少のピークのタイミングなので(長尾・ 印東 1991)、ここが収穫のタイミングになります。
しかしながら、いつ受粉したのかわからない(もしくは忘れた!)という場合もあるかと思います。
そこで次なる指標になるのは、カボチャの成り口の部分の茎が茶色っぽく筋が入っているかどうかです。これを専門用語でコルク化してくると言います。
上の写真だとコルク化が始まったところですね。収穫まではもう少しかかりますね。
キュアリングと保存方法
そして無事に収穫まで至った場合、早速食べてはNGです。
何を言っているのかと思われるかと思いますが、カボチャは適期で収穫しただけではまだ本来の甘味を出し切れていない状態になります。
具体的には、中の果肉の色はうすい黄色で食感は栗のように粉っぽくなります。加えて、まだ甘味も弱いです。
そこで収穫後に、もうひと手間、キュアリングを行います。
収穫したばかりのカボチャは、切り口や表面の傷がまだ乾いていないので、カビなどが入りやすい状態です。
そのため、保存がきくように、収穫時にできた傷口や切り口を乾かし、かつ追熟させて、カボチャ内にたまったでんぷんを糖に変えていきます。これを専門用語でキュアリングといいます。
といっても特別に何かやるわけではありません。
直射日光を避けて、一時的に25℃程度の風通しの良い場所に置いておくだけです。
どのくらいの期間置いておけばよいのか?というと、カボチャの種類によって異なります。
キュアリング期間の目安
カボチャのタイプ | 品種例 | 25℃でのキュアリング期間の目安 |
粘質系(ねっとり系) | えびす、つるなしやっこ | 10日 |
粉質系(ほくほく系) | ほっこり姫、ロロン | 2週間 |
白皮 | 夢味 | 1か月 |
和カボチャ | 必要なし |
(阪口 2015)
一般的な、えびすカボチャだと、10日ほどで完了です。
キュアリングが終わる頃には、甘味もぐっと上がって食べ頃となります。
白皮カボチャはでんぷん量が多く、キュアリングに時間がかかりますが、そえゆえ貯蔵性がよいので長持ちします。冬至までとっておいて、冬至カボチャとして食べるのもいいですね♪
キュアリング後の貯蔵温度
キュアリングが終わると、おいしく食べられる状態になるのですが、一度に何個も食べられませんよね?(残念ながら、1個しか収穫できなかった場合は問題ないですが)
まだ食べないからと言って、キュアリングの時のまま25℃の高温にずっと置いておくと、カボチャの呼吸で、でんぷんを消費してしまうので、長期保存するときは、反対に低温で貯蔵しておきます。
具体的には、キュアリング後、貯蔵する場合の適温は10℃です。
さらに低い7.5℃で貯蔵すると、より呼吸が抑えられ、糖度も上がりますが、7.5℃を下回ると低温障害の危険性があるので注意が必要です(長尾ら 1991)。
キュアリング後の貯蔵期間
残念ながら10℃で保存していても、いつまでも貯蔵できるわけではありません。キュアリングを終え、食べ頃を迎えた後の貯蔵期間中も、さらにでんぷんの分解が進み、甘くなる一方で、呼吸によって水と二酸化炭素にも分解され、紛質系のカボチャも良く言えばねっとり、悪く言えばベチャっとした食感になってきます。
よって、高い糖度と食感のバランスが保たれている状態の貯蔵限度は以下の表のとおりです。
最も甘いカボチャが食べられる貯蔵期間(キュアリング後)
品種名(タイプ) | 最高糖度 到達目安 | 貯蔵限度 (情報源) | 条件 | 参考 |
えびす (粘質系) | 40日後 | 2か月 | 25℃でキュアリング、10℃で貯蔵した場合 | (長尾ら 1991) |
おいとけ栗たん (粉質系) | 2から4か月後 | 3か月 (農研機構) | 10℃で貯蔵した場合 | (吉田ら 2019) |
雪化粧 (白皮) | 2から3か月後 | 3か月 (サカタ種苗) | 10℃で貯蔵した場合 | (吉田ら 2019) |
白爵 (白皮) | 2から3か月後 | 3か月 (渡辺採種場) | 10℃で貯蔵した場合 | (吉田ら 2019) |
栗坊 (ミニ) | 3か月後 | 1から2か月 (サカタ種苗) | 15℃で貯蔵した場合 | (渡辺ら 2014) |
ほっこり姫 (ミニ) | 1か月後 | ― | 15℃で貯蔵した場合 | (渡辺ら 2014) |
品種によって異なりますが、ふつうの一般的な西洋カボチャ(みやこ、えびすなど)ではキュアリング後1か月を過ぎると甘味が最大にさしかかり、貯蔵限度は2か月ほどです。
ほどほどのところで食べきれるといいですね。
おわりに
開花(受粉)後40日を過ぎると、その後は急激にでんぷんが分解され(減少し)、カボチャの甘味が増してきます(糖化が進むということです)。
収穫が遅れた場合は、すでに甘味が増してきている(糖化が進んできている)段階に入っているため、粘質感が早く表れ始め、腐敗がしやすく長期保存には向かなくなります。
キュアリングをしてもカビの発生は完全には防げませんので、ご注意ください。
今時期だと梅雨で切り口や傷が乾きにくいかもしれませんね。
白皮カボチャは(強)粉質系で、収穫後すぐに食べるのには向きませんが、貯蔵性が良いので、他のカボチャと一緒に1本栽培してみるとよいと思います。うまくすれば年明けまで食べられますよ。
参考文献:
児玉政弘 (1939) 南瓜授粉時刻と結顆率と関係. 農及園 14 (4).
阪口敬太郎 (2015) カボチャの品種別キュアリング期間: 農山漁村文化協会, 現代農業3月号: 186-189.
長尾明宣 (1995) ‘カボチャ果実の収穫後の生理変化 と調理適性’, 日本調理科学会誌, 28(1), pp. 59–64.
長尾明宣・印東照彦 (1991) ‘カボチャ果実成熟に伴う成分変化から見た収穫適期に関する研究’, 北海道立農業試験場集報, 62, pp. 63–68.
長尾明宣・印東照彦・土肥紘 (1991) ‘カボチャの収穫後の品質に及ぼすキュアリング条件と貯蔵温度の影響’, 園学雑, 60(1), p. 175‐181.
早瀬広司 (1947)『農業技術大系』野菜編 第5巻, 農山漁村文化協会 :p.基+89-p.基+106.
早瀬広司 (1956) カボチャ属の交雑に関する研究 Ⅶ.柱頭において花粉が発芽開始する時刻と葯の裂開, 育種學雜誌 4:261-267.
森弘 (1943) 生長ホルモンにより生成された南瓜の無種子果について, 農及園18(2):193.
森弘 (1947) 植物ホルモン剤による南瓜の単為結果誘起と之が落花防止的価値について,園学雑 16:3-4.
吉田みどり・嘉見大助・杉山慶太 (2019) ‘貯蔵性の異なるセイヨウカボチャ品種の貯蔵中の 果実のデンプン含量と可溶性糖含量の解析’, 農研機構研究報告, 2, pp. 45–55. doi: 10.3757/jser.78.611.
渡辺慶一 ら (2014) ‘ミニカボチャの貯蔵中におけるカロテノイド色素の変化’, 日本食品科学工学会誌, 61(8), pp. 367–370. doi: 10.3136/nskkk.61.367.
2020年6月28日時点
サカタ種苗 雪化粧 https://www.sakataseed.co.jp/product/search/code00921002.html
サカタ種苗 栗坊 https://www.sakataseed.co.jp/product/search/code00921003.html
農研機構 おいとけ栗たん, https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/kind-pamph/130332.html
渡辺採種場 白爵, http://watanabe-seed.com/hakusyaku.html
コメント
こんにちは!記事を拝見させていただきまして非常に参考になりました。家庭菜園なので規模は小さいのですが、私も少しかぼちゃを作っています。情けない話、早起きが苦手でして…。受粉の際に使っている農薬が気になったのですが、みい先生は何の品種で使われていますか?何卒よろしくお願い申し上げます
コメントありがとうございます。
品種についてですが、ブログに載せた写真の品種は失念してしまいました。すみません。
打木赤皮栗かぼちゃ系のもので、ホームセンターで買ってきたものです。
ミニカボチャは多く着果できるので、訪花昆虫に頼ったとしても、わりと収穫できる印象を持っています。
家庭菜園におすすめです。来年はいかがでしょうか?
今年のところは、雄花と雌花が揃いそうでしたら、できるだけ頑張って人工授粉してみて下さい。
ちなみにアークランド乳剤を使われる場合は、品種に関係なく使えます。