今回はキュウリのモザイク病についてです。
モザイク病はキュウリモザイクウイルス(以下CMV)やズッキーニ黄斑モザイクウイルス(以下ZYMV)などのウイルスによって引き起こされる病気の総称です。
本記事ではアブラムシによって媒介されるCMV、ZYMVに加えカボチャモザイクウイルス(以下WMV)とパパイヤ輪点ウイルス(以下PRSV)の特徴、また原因と対策について解説します。
アブラムシ媒介のモザイク病 (単独感染)
ウリ科作物にダメージを与えるウイルスは世界でおよそ20種類報告されており(Da Silva Barbosa et al. 2016)、日本ではそのうちの半数程度がキュウリ栽培に経済的ダメージを与えています。
特に夏場の栽培ではアブラムシによって媒介されるCMV、ZYMV、WMV、PRSVが問題となっています。
キュウリモザイクウイルス(CMV)
1つ目はCMVです。
CMVは1000種類以上の植物に感染すると推定されており、80種以上のアブラムシによって媒介されています(高浪 2005)。
しかしながら、それらの植物に一様に罹り、症状が出るかというと、そういうわけではありません。
CMVには罹病する植物の種類(宿主域)や病徴が異なる数多くの系統あるいは分離株が報告されています。
キュウリの場合、人為的に子葉もしくは本葉にウイルスを接種させると以下のような病徴を示します(三沢 and 佐藤 1969)。
CMV-普通系:子葉接種では多くの場合、接種葉に黄色から白色の斑点(Chlorotic spot)を引き起こします。本葉接種の場合はモザイク、葉脈透化、壊疽斑点を時に併発し、上位葉は黄化(クロロシス)とモザイク症状を示しWMVに酷似します。
CMV-黄斑系:接種葉に黄色斑点を生じさせ、本葉はChlorotic spotからモザイク症状、もしくは茶色から黒の壊疽斑点を示します。
ちなみに、CMVの病徴発現程度とウイルスの増加度(活性度)との間には強い正の相関があることが報告されています(三沢 and 佐藤 1969)。
すなわち病徴が激しければ激しいほどウイルスが増殖していると考えられます。
ズッキーニ黄斑ウイルス(ZYMV)
2つ目はZYMVです。
ZYMVの病徴はCMVと比較すると、かなり激しいです。葉の奇形や委縮を伴うことも多く、実もまだら模様が表れます。
このウイルスに感染する植物(宿主範囲)は主にウリ科植物で、全身感染します。
接種試験を行うと、キュウリでは上位葉にモザイク症状が現れます(岩崎, 山本, and 稲葉 1996)。その他、インゲンマメでは接種葉に退緑斑点が現れ、局部感染します。
カボチャモザイクウイルス(WMV)
3つ目は、Watermelon mosaic virusということで和名はスイカモザイクウイルスかと思いきやカボチャモザイクウイルスというひっかけです。
病徴としてはモザイク症状が出ます。ただ、ZYMVと比較するとそこまで激しくありません。
しかしながら宿主範囲は比較的広く、接種試験を行うとトカドヘチマを除く主なウリ科植物とエンドウマメ、ソラマメで、全身感染します(岩崎, 山本, and 稲葉 1996)。また花卉だと、トルコギキョウの輪紋病やサギソウの萎縮病の原因ウイルスです。
パパイヤ輪点ウイルス(PRSV)
4つ目は、PRSVです。
PRSVの場合はWMVよりもややはっきりとしたモザイク症状が現れます。また、名前の通りリング状に見えることもあります。
ちなみにPRSVはその宿主域の違いによりPRSV-WとPRSV-Pという2つの種類があります。PRSV-WはかつてWMV 1とされていたものです(現在WMVといえばWMV 2のことを指します)。
このPRSV-Wに感染する植物(宿主範囲)はアレチウリを除くウリ科植物全般で、全身感染します。
接種試験を行うと、
キュウリでは葉脈透過,モザイク, 葉脈緑帯等の症状とともに黄化症状が現れ,特に中下位葉が顕著で, 葉縁の白化,葉の硬化を伴い枯れ上がりが早い傾向があり,草丈の短縮程度も激しかった(岩崎, 山本, and 稲葉 1996)
と報告されています。
その一方、マメ科植物やパパイヤには感染しません。
「”パパイヤ輪点ウイルス”なのにかーーい」とツッコミたいところですよね。
安心してください。PRSV-Pは主にパパイヤに感染します。
(実験的にはウリ科植物も感染するようです(Omar et al. 2011))
重複感染
CMVと、Potyvirus 属ウイルス(ZYMV, WMV, PRSV)に単独でなく二重、もしくは三重に感染することを重複感染と言います。そして、重複感染すると単独のウイルスが感染した場合よりも葉に激しいモザイク症状が現れます。
大木(2010)によりますと、
CMV は Potyvirus 属ウイルスと重複感染すると感染細胞当たりのウイルス濃度と感染細胞数が有意に増加し,病徴が激化する.
とあります。
加えて、日中しおれた状態が何日も続き、最終的には枯れることがあります。これを急性萎凋(きゅうせいいちょう)症と言います。
この症状は接ぎ木することによって発生が増加するのですが、岩崎ら (1996) は色のついた水をキュウリに吸わせてどこの部分が原因か調べています。
その結果、CMVとPotyvirus属ウイルスによる急性萎凋症は接ぎ木の接合部分とキュウリの下胚軸(双葉の下の茎の部分)の導管が詰まることによる水の移行阻害であり、その後の導管の分化・発達に異常を生じ、導管の機能が回復しないとしおれが続いて枯死し、導管が新生された場合は後日回復すると推察しています。
なお、CMV単独接種株とZYMV単独接種株、さらにそれらの複合感染株を比較すると、CMV単独接種株では導管の閉塞率が低いのに対して、ZYMVの単独感染および複合感染では閉塞率が高いと報告されています。
すなわちZYMVは急性萎凋症を起こしやすいということです。
モザイク病の感染経路
上記のモザイク病の感染経路は2つです。
1次感染経路はアブラムシによる感染、2次感染経路は芽欠きなどの管理作業で罹病株の汁液を接種させてしまう汁液(接触)感染です。
アブラムシによる感染
1次感染経路であるアブラムシによる感染は、以下のようなメカニズムです。
まず、アブラムシが感染植物の汁を吸うことで、アブラムシの口針にウイルスが一時的に付着します。次に健全な植物に移り、口針を刺して植物の汁を吸う時に感染させます(花田 2005)。
山本・石井(1983)の実験ではアブラムシを2~3時間の絶食のあと、2分間、感染植物の葉に乗せておくだけでウイルスを獲得させています。
余談ですが、ウイルスはアブラムシ体内では増殖しないため、非永続的に伝播されます。
どういうことかというと、アブラムシの口針にウイルスが付着し1度保毒した状態になっても、その後ずっと保毒しているわけでないというわけです。
汁液感染
2次感染経路は汁液感染です。
管理作業中にモザイク病に罹った株を触り、その汁が付いた手やハサミを使って作業することで、感染を広げてしまうことがあります。
対策
対策としては、アブラムシの発生をできるだけ抑制する事と、併せて弱毒ウイルスを接種させた苗の利用、もしくはZYMV抵抗性品種の利用になります。
アブラムシの飛来予防
アブラムシの飛来予防のためには以下3点を心がけるとよいです。
→シルバーマルチの利用(反射がまぶしくてアブラムシを寄せ付けない)
→雑草の除去(ウイルスに罹った植物とアブラムシの温床)
→農薬の利用
弱毒ウイルス苗の利用
ウイルスの干渉作用を利用して、急性萎凋を防ぐ方法が弱毒ウイルスです。ZYMV に対しては ZYMV 弱毒株水溶剤「キュービオ ZY-02」が農薬登録されています。
苗だと、日本デルモンテアグリ㈱で、弱毒CMVを接種した苗を「予防接種苗」として販売しています。
また、ベルグアース㈱ではZYMVの弱毒ウイルスを接種した苗に加えて、CMV+WMVの弱毒ウイルスを接種した苗を「ウイルスガード苗」として販売しています。
現在のところZYMV+CMV+WMVといった混合弱毒ウイルス接種苗は発売されていませんが、ベルグアース㈱では2022年に3種混合接種苗の販売を開始予定です。
ZYMV抵抗性品種の利用
ホームセンターで売っている苗、もしくはタネで「ウイルスに強い」と表記されているものを見かけることがあります。
これは全てのウイルスに抵抗性を持っているかというと、そうではありません。
今のところ商品化されているのはZYMV抵抗性品種だけです。
そのため、単に「ウイルスに強い」という表記がある苗もしくはタネは、基本的にZYMVに強いということなので、CMVなど他のウイルスには弱いです。ただ、ZYMVが一番経済的ダメージを与えやすく、重複感染での急性萎凋を防ぐ意味でも利用価値はあります。
おわりに
そうは言っても、いざモザイク症状を見つけたときにウイルスの同定は難しいですよね?
そんな時はこちら
イムノストリップです。
葉を少し採って、バッグの中ですりつぶし、試験紙を入れて早ければ5分ほどで結果が出ます。
上の写真はZYMVを調べたときのものですが、矢印で示したバンドが1本だと陰性で、バンドが2本出た場合は陽性です。
右側はバンドが2本出たので陽性=ZYMVとわかります。
ZYMV以外にもCMVなど様々なキットが販売されていますので、ご興味のある方は調べてみてください。
参考文献:
Omar, A. F., S. A. El-Kewey, S. A. Sidaros, and A. K. Shimaa. 2011. “Egyptian Isolates of Papaya Ringspot Virus Form a Molecularly Distinct Clade.” Journal of Plant Pathology 93(3): 569–76.
Da Silva Barbosa, Graziela et al. 2016. “Identification and Effects of Mixed Infection of Potyvirus Isolates with Cucumber Mosaic Virus in Cucurbits.” Revista Caatinga 29(4): 1028–35.
三沢正生, and 佐藤威. 1969. “キュウリモザイクウイルスに対するキュウリ品種の感受性について.” 北日本病害虫研究会報 20: 1–27.
大木理. 2010. “キュウリモザイクウイルスの感染動態に関する研究.” 日植病報 76: 128–31.
山本孝, and 石井正義. 1983. “感染キュウリ品種からのカボチャモザイクウイルスおよびキュ ウリモザイクウイルスのアブラムシによる伝搬.” 日本植物病理學會報 49(4): 508–13.
岩崎真人, 山本孝狶, and 稲葉忠興. 1996. “ウイルスによるカボチャ台接ぎ木キュウリの萎凋症に関する研究.” 四國農業試験場報告 60: 1–88.
花田薫. 2005. “転ばぬ先の野菜のウイルス病とその対策.” In 園芸新知識, , 21–24.
高浪洋一. 2005. “キュウリモザイクウイルスの多様な病原性の発現機構.” 化学と生物 43(2): 90–95.
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