施設内では一年を通して発生しますが、特に乾燥していると出てくるのが、このハダニです。農薬をかけてもなかなか撃退が難しく、ハダニをはびこらせて、手に負えなくなった農家さんもいらっしゃいます。
本記事では、キュウリのハダニ被害の様子と使える農薬をお伝えします。早めの発見と早めの農薬散布を心がけていきましょう。
ハダニの被害葉
キュウリがハダニの被害をうけると、葉が白っぽくなってきます。これが専門用語で「かすり」と言われる症状です。
ハダニは 25°C の条件では、10日たらずで卵から成虫になり,その後,2–4週間にわたって産卵を続けるため(Kondo and Takafuji, 1985)、発見が遅れると大増殖していることがあります。
ハダニは英語でspider mite(スパイダー マイト)と言われ、クモのように糸をはります。クモの巣のように太い糸ではないので、一見見つけにくいのですが、変な糸が葉についていたら要注意です。
上の写真だと、葉の周りに点々がありますが、これが糸で垂れ下がっているハダニです。
キュウリに発生するハダニ
主に発生するのは、ナミハダニ(黄緑型と赤色型)とカンザワハダニです。
体長は0.5㎜ほどなので、肉眼ではここまではっきりは見えません。黄色い丸は卵です。
侵入経路
ハダニは、風による飛散もあるものの、歩行による移動がかなり多いと報告されています(小林・深沢 1981)。そのため、畑の雑草などから歩いて移ってきます。ハウスの場合も強制換気がついていなければ入り口から人と一緒に入ってくることが多いようです。
ナミハダニの歩行速度はレッドクローバの葉の裏だと時速0.89mで、進んでいる間は常に糸を吐いています(斎藤 1977)。
ハダニの殺虫剤
それでは、ハダニが出たときに使える農薬を家庭菜園向けと、農家さん向けに分けてご紹介します。
家庭菜園向け殺虫・殺ダニ剤
家庭菜園用の薬剤は安全性が高い気門封鎖系・その他の薬剤に分類されるものが多いです。これらはマシン油やなたね油が主体となっている農薬で、ダニを窒息死させます。原理としては、ゴキブリに食器洗い用洗剤をかけて窒息死させるのと同じです。安全性は高いですが、しっかりとかからないと死にません。
- ベニカマイルドスプレー (気門封鎖系)
- ベニカRスプレー(3A:ピレスロイド)
- モストップジンRスプレー (4A:ネオニコチノイド,3A:ピレスロイド,F・1:チオファネート)
- カダンセーフ(気門封鎖系)
- ガーデンアシストパームスプレー(その他)
- あめんこ(気門封鎖系)
- アーリーセーフスプレー(その他)
一般農薬一覧
天敵を使うならミヤコカブリダニとチリカブリダニですが、殺虫剤を使用する場合が多いと思いますので、天敵を除いて殺虫剤・殺ダニ剤についてまとめました。
ハダニは薬剤の抵抗性を発達させやすいため、RACグループナンバーを参考にローテーション防除・ブロック防除を行っていきましょう。
何を使おうか迷われている方は、表の下までジャンプしていただき著者のおススメ農薬をチェックしてみてください。
2020年5月現在
農薬名 | 登録作物 | 使用回数 | 使用方法 | 一般名 | RACグループNo. | 系統 | 種類 |
ダイアジノン乳剤40 | きゅうり | 1回 | 散布 | ダイアジノン乳剤 | 1B | 有機リン | 殺虫 |
ネマトリン粒剤 | きゅうり | 1回 | 全面土壌混和 | ホスチアゼート粒剤 | 1B | 有機リン | 殺線虫 |
マラソン乳剤 | きゅうり | 3回以内 | 散布 | マラソン乳剤 | 1B | 有機リン | 殺虫 |
マラソン乳剤50 | きゅうり | 3回以内 | 散布 | マラソン乳剤 | 1B | 有機リン | 殺虫 |
マラソン粉剤1.5 | きゅうり | 3回以内 | 散布 | マラソン粉剤 | 1B | 有機リン | 殺虫 |
マラソン粉剤3 | きゅうり | 3回以内 | 散布 | マラソン粉剤 | 1B | 有機リン | 殺虫 |
アーデント水和剤 | きゅうり | 4回以内 | 散布 | アクリナトリン水和剤 | 3A | ピレスロイド | 殺虫 |
テルスタージェット | きゅうり/温室、ビニールハウス等密閉できる場所 | 3回以内 | くん煙 | ビフェントリンくん煙剤 | 3A | ピレスロイド | 殺虫 |
マブリックジェット | きゅうり/温室、ビニールハウス等の密閉できる場所 | 2回以内 | くん煙 | フルバリネートくん煙剤 | 3A | ピレスロイド | 殺虫 |
ロディー乳剤 | きゅうり | 5回以内 | 散布 | フェンプロパトリン乳剤 | 3A | ピレスロイド | 殺虫 |
スミロディー乳剤 | きゅうり | 5回以内 | 散布 | フェンプロパトリン・MEP乳剤 | 3A/1B | ピレスロイド/有機リン | 殺虫 |
アグリメック | きゅうり | 2回以内 | 散布 | アバメクチン乳剤 | 6 | マクロライド | 殺虫 |
コロマイト水和剤 | きゅうり | 2回以内 | 散布 | ミルベメクチン水和剤 | 6 | マクロライド | 殺虫 |
コロマイト乳剤 | きゅうり | 2回以内 | 散布 | ミルベメクチン乳剤 | 6 | マクロライド | 殺虫 |
ニッソラン水和剤 | きゅうり | 2回以内 | 散布 | ヘキシチアゾクス水和剤 | 10A | ヘキシチアゾクス | 殺ダニ |
バロックフロアブル | きゅうり | 1回 | 散布 | エトキサゾール水和剤 | 10B | エトキサゾール | 殺ダニ |
ダニメツフロアブル | きゅうり | 1回 | 散布 | エトキサゾール・オレイン酸ナトリウム水和剤 | 10B/未分類 | エトキサゾール/気門封鎖系殺虫剤 | 殺虫 |
コテツフロアブル | きゅうり | 3回以内 | 散布 | クロルフェナピル水和剤 | 13 | ピロール | 殺虫 |
カネマイトフロアブル | きゅうり | 1回 | 散布 | アセキノシル水和剤 | 20B | アセキノシル | 殺ダニ |
ダニ太郎 | きゅうり | 1回 | 散布 | ビフェナゼート水和剤 | 20D | ビフェナゼート | 殺ダニ |
マイトコーネフロアブル | きゅうり | 1回 | 散布 | ビフェナゼート水和剤 | 20D | ビフェナゼート | 殺ダニ |
サンマイトフロアブル | きゅうり | 2回以内 | 散布 | ピリダベン水和剤 | 21A | METI | 殺虫 |
ダニトロンフロアブル | きゅうり | 1回 | 散布 | フェンピロキシメート水和剤 | 21A | METI | 殺虫 |
ピラニカEW | きゅうり | 1回 | 散布 | テブフェンピラド乳剤 | 21A | METI | 殺虫 |
シーマージェット | きゅうり/温室・ビニールハウス等密閉できる場所 | 1回 | くん煙 | テブフェンピラド・BPMCくん煙剤 | 21A/1A | METI/カーバメート | 殺虫 |
モベントフロアブル | きゅうり | 3回以内 | 散布 | スピロテトラマト水和剤 | 23 | テトロン酸・テトラミン酸誘導体 | 殺虫 |
スターマイトフロアブル | きゅうり | 1回 | 散布 | シエノピラフェン水和剤 | 25A | βケトニトリル誘導体 | 殺ダニ |
ダニサラバフロアブル | きゅうり | 2回以内 | 散布 | シフルメトフェン水和剤 | 25A | βケトニトリル誘導体 | 殺ダニ |
ダブルフェースフロアブル | きゅうり | 1回 | 散布 | ピフルブミド・フェンピロキシメート水和剤 | 25B/21A | カルボキサニリド/METI | 殺虫 |
グレーシア乳剤 | きゅうり | 2回以内 | 散布 | フルキサメタミド乳剤 | 30 | イソオキサゾリン | 殺虫 |
アーリーセーフ | 野菜類 | – | 散布 | 脂肪酸グリセリド乳剤 | その他 | 殺虫 | |
サンクリスタル乳剤 | 野菜類 | – | 散布 | 脂肪酸グリセリド乳剤 | その他 | その他 | 殺虫 |
アカリタッチ乳剤 | 野菜類 | – | 散布 | プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル乳剤 | 不明 | 気門封鎖系殺虫剤 | 殺虫 |
デュアルサイド水和剤 | きゅうり | 2回以内 | 散布 | プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル・ポリオキシン水和剤 | 不明 | 気門封鎖系殺虫剤 | 予+治 |
フーモン | 野菜類 | – | 散布 | ポリグリセリン脂肪酸エステル乳剤 | 不明 | 気門封鎖系殺虫剤 | 殺虫 |
ボタニガードES | 野菜類 | – | 散布 | ボーベリア バシアーナ乳剤 | 不明 | 微生物 | 殺虫 |
エコピタ液剤 | きゅうり | – | 散布 | 還元澱粉糖化物液剤 | 未分類 | 気門封鎖系殺虫剤 | 殺虫 |
キモンブロック液剤 | 野菜類 | – | 散布 | 還元澱粉糖化物液剤 | 未分類 | 気門封鎖系殺虫剤 | 殺虫 |
サフオイル乳剤 | 野菜類 | – | 散布 | 調合油乳剤 | 未分類 | 気門封鎖系殺虫剤 | 殺虫 |
スプレーオイル | きゅうり | – | 散布 | マシン油乳剤 | 未分類 | 気門封鎖系殺虫剤 | 殺虫 |
トモノールS | きゅうり | – | 散布 | マシン油乳剤 | 未分類 | 気門封鎖系殺虫剤 | 殺虫 |
ハーベストオイル | きゅうり | – | 散布 | マシン油乳剤 | 未分類 | 気門封鎖系殺虫剤 | 殺虫 |
ハッパ乳剤 | きゅうり | – | 散布 | なたね油乳剤 | 未分類 | 気門封鎖系殺虫剤 | 殺虫 |
ラビサンスプレー | きゅうり | – | 散布 | マシン油乳剤 | 未分類 | 気門封鎖系殺虫剤 | 殺虫 |
粘着くん液剤 | 野菜類 | – | 散布 | デンプン液剤 | 未分類 | 気門封鎖系殺虫剤 | 殺虫 |
ハダニのおススメ農薬
これだけ農薬の種類が多いと、何を使おうか迷われると思いますので、著者のおススメを1つご紹介します。
それがこちらです。
サフオイル乳剤です。
有効成分はベニバナ油と綿実油で安全性が非常に高く、気門を塞いで窒息死させるタイプの薬剤(=薬剤抵抗性を発達させる心配がなく、抵抗性を発達させたハダニにも効く)です。
このような気門封鎖系の薬剤は他にもたくさんあるのですが、サフオイル乳剤の特筆すべきポイントは、殺卵活性があり、ハダニおよびコナジラミの全発育ステージに有効だということです。
気門封鎖系の中では、サンクリスタル乳剤もこの特徴を持っているのですが、サフオイル乳剤の方がお財布に優しいです。
回数制限もないので、定期的に使って低い密度に抑えることもできますし、発生数が増えてきたら、他の作用機構を持つ殺ダニ剤にプラスして使うのもおススメです。
おわりに
ハダニは厄介ですよね。やっつけても、やっつけてもハウスの中に外から入ってきちゃう。
ということで、葉面散布や農薬散布の際に一緒に気門封鎖系のものを小まめに散布して、ハウス回りの除草も小まめにやる。
という、予防が今回のポイントです。
それでも発生が爆発して抑えられない時に使う、切り札剤の殺ダニ剤は、名前にマイトと付いているものが多いので(カネマイト、スターマイト他)、何の薬剤かピンときやすいのではないかと思います。
使用できる回数も少ないですので、これらの使用はしなくて済むように予防に努めていきましょう。
参考文献:
小林義明・深沢永光 (1981) 野菜を加害するハダニ類の生態と防除. 静岡県農業試験場報告26: 12-34
Kondo, A. and A. Takafuji (1985): Resource utilization pattern of two species of tetranychid mites (Acarina:Tetranychidae).Res. Popul. Ecol., 27: 145–157
斎藤裕 (1977) ハダニ類の吐糸行動の解析. 日本応用動物昆虫学雑誌 21(1): 27-34
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