こんにちは、みい@博士(農学)です。
今回は種苗会社が行っている、野菜種子の種子消毒についての概要記事です。
市販されている野菜の種にカラフルな色がついていたりしますが、これは、播くときにわかりやすいだけでなく、病気の予防のために農薬で消毒されています。
それでは、詳しくみていきます。
種子消毒とは?
種子消毒は、種子の内部や種子表面、さらに発芽時、種子に接する媒体(土壌など)に付着している病原菌などを消毒・殺菌する目的で行われている処理のことです。
種子伝染する病気
汚染された種子から発病することがある、主な種子伝染病、ウイルス、ウイロイドには以下のようなものがあります。
糸状菌…
- ウリ科のつる割れ病、つる枯れ病、炭疽病
- アブラナ科の黒斑病・黒すす病、根朽病
- ニンジンの黒斑病・黒葉枯病
細菌…
- ウリ科の果実汚斑細菌病、斑点細菌病、褐斑細菌病
- アブラナ科の黒腐病
- トマトのかいよう病
ウイルス…
- ウリ科のスイカ緑斑モザイクウイルス、キュウリ緑斑モザイクウイルス、メロンえそ斑点ウイルス
- トマトのトマトモザイクウイルス
- ピーマンのピーマン微斑ウイルス
ウイロイド注…
- トマト、ピーマンのジャガイモやせいもウイロイド、トマト退緑委縮ウイロイド
注:ウイルスよりもサイズが小さい病原体で、熱や薬剤に対して安定的で、効果のある種子消毒法がありません
種子消毒の方法は?
主に物理的消毒法と化学的消毒法の2つです。
物理的消毒法
これは、主に熱処理(温湯処理または乾熱処理)のことです。
病原体の死滅温度と種子の高温耐性(発芽力)を考慮して行われます。化学的消毒法では効果が不十分な種子内部の病原体にも効果を発揮することが特長です。
イネの温湯処理(60℃のお湯に籾を15分浸す)は昔からよく知られている方法だと思いますが、野菜類の種子も熱処理で消毒します。
野菜種子の場合、種子消毒を目的として温湯処理されることは、一般的ではありません。温度の維持が難しく、大型種子の場合は種子内部に熱が伝わりにくかったり、アブラナ科の種子は濡れることで種皮が破れ発芽率の低下を招いたりするためです。
そのため、熱した風を用いる乾熱処理が細菌やウイルスを対象に行われています。
1例を挙げると、トマトやピーマンなどのトバモウイルス(TMV、ToMV、PMMoV)を対象としては、35℃から40℃で予備乾燥をして種子の含水率を下げてから、70℃で3日の処理を行います。
化学的消毒法
こちらは農薬などを用いた方法です。種子表面についた細菌や糸状菌を対象に行われています。乾熱処理と比べると、発芽率の低下や種子の寿命を心配する必要がなく、高価な機械を使わなくてもよいことから広く行われています。
実際の処理は浸漬、紛衣、塗抹などの方法で行われ、色のついた水溶性ポリマーで種子全体を覆うフィルムコートと合わせて処理されることも多いです。
種袋の裏側をよく読むと、農薬を使って種子消毒されている場合、何の農薬が使われているか書かれています。よく見るのは以下の農薬です。主に立ち枯れ病対策として使われていることがわかります。
- チウラム(チウラム80):野菜類の苗立ち枯れ病菌対策(フザリウム菌・リゾクトニア菌)
- キャプタン(オーソサイド水和剤80):野菜類の苗立ち枯れ病菌対策(ピシウム菌・リゾクトニア菌)
- チウラム・ベノミル(ベンレートT水和剤20):野菜類の苗立ち枯れ病菌対策(フザリウム菌・リゾクトニア菌)
- 塩基性塩化銅(野菜類種子消毒用ドイツボルドーA):種子伝染性細菌病対策
また、農薬ではありませんが、次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸カリウムは細菌や糸状菌に効果があり、リン酸三ナトリウムはウイルスに効果があります。
参考文献:
新・種苗読本(2018)日本種苗協会編 農文協
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