- 急に芯の伸びが悪くなった。
- 生長点付近の葉が黄色く巻いてきた。
ということありませんか?今回は、トマトの黄化葉巻病についてです。
本記事では、黄化葉巻病の病徴、ウイルスの特徴、媒介虫のタバココナジラミの特徴、耐病性品種について解説します。
ウイルス病は農薬で治りませんので、敵を知ったうえで耐病性品種を選んでくださいね。
トマト黄化葉巻病の病徴
その名の通り、生長点近くの葉が黄色くなって、葉が巻き始めます。
ウイルス病被害とは直接関係ありませんが、媒介虫のタバココナジラミ(主に幼虫)の分泌物で葉が黒くなります。
同様に果実も汚れます(粘着質なので乾いたタオルで磨いたくらいじゃとれません)
黄化葉巻病ウイルスの特徴
トマトに黄化葉巻症状を引き起こすベゴモウイルスは、アジア産とアフリカ産(イスラエル、地中海沿岸を含む)に大別されます。
日本で発生する黄化葉巻病のウイルスであるTYLCV(Tomato yellow leaf curl virus)は、アフリカ産の強毒タイプのイスラエル系統と同マイルドタイプのマイルド系統の大きく2つです(本田 2006)。
日本で初めて発生が確認された1996年当時は発生地域によってこれらが分かれ、長崎県が強毒タイプ、東海地方がマイルドタイプといわれていました。しかし現在では、九州・四国以外に関東圏でも強毒タイプ(イスラエル系統)が確認され、分布が入り乱れていると思われます(田口 2007)。
- イスラエル系統長崎株(西日本中心)
- マイルド系統愛知株(東海地方中心)
- マイルド系統静岡株(東海地方中心)
- イスラエル系統土佐株(※長崎株とは塩基配列が異なる遺伝子型)
2004年に高知で発生が確認された土佐分離株もTYLCVイスラエル株に属しますが、塩基配列が長崎株とは異なります。
ちなみに日本産のTbLCJVが病原ウイルスであるトマト黄化委縮病は、在来系統のタバココナジラミ(韓国の在来種と近縁)によって媒介されます(本田 2006)。
ウイルス源
静岡で発生しているTYLCVのマイルド株(静岡株、愛知株)は、集中的な野外調査にもかかわらずトマト以外の感染植物は発見されていません(本田 2006)。
野外でのTYLCVのウイルス源になっていることが確認されているのは、野良生えトマトと家庭菜園トマトだけです。
ウイルスの感染はどのようにして起こるのか?
このTYLCVがどのようにしてトマトに感染するかというと、2つの感染方法が明らかになっています(本田 2006)。
1つ目は接ぎ木による感染です(感染したトマトを台木として利用)。
2つ目は、TYLCVに感染したトマトの汁液を吸ったタバココナジラミという虫によって媒介される感染です。
育種などで意図的に感染させる場合を除いて、感染のほとんどはタバココナジラミ媒介による伝染です。
ちなみに、一般的な条件では汁液伝染しないので(斎藤 2006)、感染株を触った手やハサミでほかの株にうつすことはありません 。
経卵伝染(バイオタイプBによる)は、経卵伝染するとした海外の報告がある一方、確認されなかったとする国内の報告がいくつかあるため、恐らくしないと考えていいと思います。
感染にかかる時間は?
罹病トマト株からタバココナジラミ(バイオタイプB)成虫がウイルスを獲得し、無病トマト苗に感染させるためには、24時間の獲得吸汁時間が必要です(感染株率75%)(本田 2006)。
しかしながら、一度獲得吸汁が成功すると、永続接種されるので、その個体が死ぬまでウイルスを保持、伝染し続けます。
また、ウイルス保毒コナジラミ成虫が無病トマト苗に接種吸汁を行った場合、最短15分の吸汁で感染株が発生します。
タバココナジラミの生態
上述したウイルスを媒介するタバココナジラミ類の成虫は体長約0.8mm、体色は黄色で成虫の羽は白色です。卵は直径約0.2mmの円筒状です。産卵直後は白色で、徐々に黄色くなり、孵化直前には褐色となります(田口 2007)。
発育に要する日数は温湿度条件によって異なりますが、卵→幼虫→蛹→成虫と変態し、恒温室条件(25℃、70% RH)では1世代は28日程度です。孵化直後の1齢幼虫は歩行可能ですが、2齢以降は葉裏等に固着し養分を吸汁することによって成熟します(笹島 2015)。
タバココナジラミの生存日数は,25℃では1か月弱あるためウイルスを保毒した成虫が1頭存在するだけで多数の株に被害が出ます。
タバココナジラミのバイオタイプ
ウイルスを媒介するタバココナジラミにもタイプがあり、日本では4つのバイオタイプの発生が確認されています(田口 2007)。
- バイオタイプJpl:スイカズラなどに寄生する在来系統
- バイオタイプNaul:西南諸島に分布する在来系統
- バイオタイプB:1989年頃日本に侵入。別名シルバーリーフコナジラミ
- バイオタイプQ:現在各地で問題になっているタイプで、農薬の抵抗性を持ちやすい
2004年から2007年に熊本県で行われた調査(施設栽培7作物41地点、露地栽培8作物29地点)では、発生していたタバココナジラミはそのほとんどがバイオタイプQで、わずかにバイオタイプJpLが確認されましたがバイオタイプBは確認されていません(堤ら 2009)。
このことから、現在発生しているタバココナジラミの多くはバイオタイプQと考えたほうがよいかもしれません。
黄化葉巻病対策ー耐病性品種の利用ー
黄化葉巻病を防ぐ方法の1つに耐病性品種の利用があります。
トマト栽培種(Lycopersicon esculentum)では免疫(抵抗)性を示す素材は今のところありません。しかし、トマト近縁種において複数の抵抗性素材が見つかっており、育種が進められています(斎藤 2006)。
現在のところ, 6つの耐病性遺伝子(Ty-1からTy-6)が発見されており(鈴木ら 2019:Hutton and Scott 2014)、日本では、 Ty-1、Ty -2、Ty -3 および Ty -3a が利用されています。その中でTy -1と Ty -3 または Ty -3a は密に連鎖しています (福田ら 2010)。それゆえ、現在日本で利用されている耐病性品種の遺伝子型にはTy -1+ Ty -3、Ty -1 + Ty -3a、Ty -3、Ty -3a および Ty -2の 5 種類があります (松永 2015)。
TYLCVの耐病性品種の抵抗性遺伝子
耐病性遺伝子 | TYLCV抵抗性 | 補足情報 | 品種例 | |
イスラエル系統 | マイルド系統 | |||
Ty-1+ Ty-3a型 Ty-1+ Ty-3型 Ty-3a型 Ty-3型 | 〇 | 〇 | 高温時には発病することがある |
|
Ty-2型 | ◎ | × | イスラエル系統に対しては高温時でもほぼ完全な耐病性を示すが、マイルド系統に対してはまったく耐病性を示さない |
|
Ty -1+ Ty -3、Ty -1 + Ty -3a、Ty -3、Ty -3a型はイスラエル系統、マイルド系統共に耐病性を持ちますが、高温の環境では発病する可能性があります。
そのため8月・9月定植で翌年6月までの作型だと、翌春の温度が上がってくる頃からポツリポツリと発病する株が出てきます。
その一方、Ty-2型は強毒タイプのイスラエル系統に対して、高温時でもほぼ完全な耐病性を示しますが、マイルド系統には感受性です。
また、耐病性品種利用における重要なポイントは、耐病性品種を利用すると、ウイルスに感染しても植物体内のウイルス濃度が増加せず、病徴は抑制されますが、植物体内にはウイルスが残るという点です。完全な抵抗性というわけではありません。
加えて、 Cucumber mosaic virus (CMV) が複合感染すると耐病性が低下することが報告されています (Butterbach ら 2014)。
TYLCV感染した耐病性品種からの感染は?
TYLCV耐病性品種はウイルスに感染しても、ウイルスの増殖が抑えられるため多くの場合生育不能には陥りません。しかしながら、その株にウイルスを持っていないタバココナジラミが来た場合、ウイルスの保毒虫になるのでしょうか?
大西・西野 (2016)の試験結果では、TYLCV(イスラエル系)に感染させた耐病性品種(TYみそら86)では56%のコナジラミ(バイオタイプB)がウイルスを保毒できたものの、そこから健全トマトへの感染は12%ほどだったと報告しています。
トマト黄化葉巻病に感染した耐病性トマト品種をウイルス源としたタバココナジラミ・
バイオタイプBのウイルス保毒虫率と媒介性
タバココナジラミ保毒率 | 感染株率 | |
罹病性トマト品種 (n=2) | 96.3 | 62.5 |
耐病性トマト品種 (n=4) | 55.6 | 11.9 |
大西・西野 (2016)を編集
残念ながら耐病性品種でも2次感染が可能ということですね。ただ、罹病性品種と比べて、2次感染のスピードが遅くなる利点がありますね。
おわりに
最近の耐病性品種の食味は向上してきていますし、TYLCV耐病性品種なしにトマト栽培は考えられません。
葉が垂れ下がったりして葉裏に農薬をかけるのも大変ですし、それゆえ爆発的にタバココナジラミが増殖していきますからね。
一部ではありますが品種の名前にTYと入っているものは黄化葉巻病耐病性品種ですので(ミニトマトだとTY千果など)、苗や種を買うときに参考にしてみてください。
参考文献:
本田健一郎 (2006) トマト黄化葉巻病と媒介コナジラミ,防除法を巡る研究情勢と問題点.野菜茶業研究集報 3:115-122
田口義広 (2007) 黄化葉巻病と防除対策. 農業技術大系(2): 基+548の2-基+548の14
笹島俊也 (2015) デュポンTMベリマークⓇSCによるトマト黄化葉巻病の防除. 農薬時代196 :16-21
堤泰之・吉島豊喜・小野誠・森田敏雅 (2009) 熊本県への導入に適するトマト黄化葉巻病抵抗性品種の検討と減収抑制効果の評価法. 熊本県農業研究センター研究報告17:1-8
斎藤新 (2006) トマト黄化葉巻病抵抗性育種の現状と問題点. 野菜茶業研究集報 3: 99-102
鈴木良地 ・加藤政司・福田至朗・大藪哲也・坂 紀邦 (2019) TYLCV 感染性クローンを利用した簡易接種法による抵抗性トマト系統の選抜. 園学研18 (4):363–371
福田至朗 ・吉川友紀 ・田中哲司 ・加藤政司 ・山田眞人 (2010)「Athyla」由来のトマト黄化葉巻病抵抗性遺伝子 に連鎖する Ty-1共優性DNAマーカーの開発.愛知農総試研報42:7-13
Hutton, S. F. and J. W. Scott. 2014. Ty-6, a major begomovirus resistance gene located on chromosome 10. Tomato Genetic Cooperative Report 64: 14–18.
松永啓 (2015) 果菜類における病虫害抵抗性育種の現状と展望. 植物防疫 69 (5): 56-63
Butterbach P,M. G. Verlaan,A.Dullemans,D. Lohuis,R. G.Visser,Y.BaiandR.Kormelink (2014) Tomatoyellowleaf curl virusresistancebyTy-1involvesincreased cytosine methylation of viralgenomesandiscompromisedby cucumber mosaic virusinfection.Proc.Natl.Acad.SciUSA.11: 12942-12947
大西純・西野実 (2016) ト マト黄化葉巻病に罹病した耐病性品種をウイルス獲得源とした
タバココナジラミ媒介性の評価. 関西病虫研究58: 87-89
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