日本では一般的にキュウリはカボチャに接ぎ木します。
すなわち、根の部分はカボチャなわけです。
今回は、キュウリの接ぎ木を挑戦する方向けに、接ぎ木の意義とポイントを解説します。
ぜひ挑戦してみてくださいね。
なぜ接ぎ木をするのか?
そもそもなぜキュウリを接ぎ木するのかと言えば、カボチャの根を使うことで以下4点の利点が得られるためです。
①病気の回避のため
カボチャはつる割れ病、疫病に強いので、病気の回避のためというのがまず1つです。
②吸肥力の向上
カボチャの根はキュウリと比べると肥料を吸う力が強いので、長期栽培でもキュウリの樹が長持ちしやすくなる(高橋, 1998)というのが2つ目です。
③低温伸張性が優れる
春先など地温が15℃以下になるような場面では、キュウリの根よりもカボチャの根の方が低温伸張性が優れ、収量が上がる(高橋, 1998)というのが3つ目です。
④ブルームが吹かない
そして最後、これは現在主流のブルームレス台木を使った場合、きれいなピカピカキュウリができるというのが4つ目です。
なんじゃそりゃと思われる方もいらっしゃると思いますが、ブルームレス台木を使用しないとブルームと呼ばれる白い粉がキュウリの表面に付きます。
アップにするとこんな感じです。
自根キュウリは表面に白い粉(ブルーム)が付いていますよね?
スーパーで売られているキュウリは、ブルームレス台木を使用して栽培したキュウリなので、このようなブルームキュウリはなかなかお目にかかることはありません。
この白い粉の主要構成物質はケイ素で、橘 (2012)によると
野菜の中にはケイ素を必須元素とするものはないとされているが、ウリ類(特にキュウリとカボチャ)は例外的にケイ素の吸収量が多く、このためにブルームの発生が起こりやすい。
とされていて、ケイ素の吸収が少ないカボチャがブルームレス台木ということになります。
そのため、それ以前に使われていた台木カボチャである、白菊座や新土佐、クロダネカボチャを使った場合はブルームが発生します。
接ぎ木の方法
接ぎ木の方法はいくつかあるのですが、今回は一番難易度が低い、呼び接ぎの方法をご紹介します。スケジュールはご覧の通りです。
およそ1か月弱で接ぎ木苗が仕立てられます。
種まき数日前の準備
まずは土の準備です。キュウリと台木カボチャを播くための育苗箱や、接ぎ木した後に植えるポリポットに培養土を詰め、水をたっぷりとやります。
そして次に、土壌消毒です。
立ち枯れ病を予防するため、太陽熱や薬剤などを使って土と育苗箱などの資材も消毒します。太陽熱消毒の場合は、晴れた日に水をたっぷり含んだ育苗箱やポットを透明のごみ袋の中に入れて封をしておくだけでも消毒できます。
しっかりとできているかの目安は60℃で30分です。地温を60℃まで温めて30分間維持できれば、多くの昆虫、糸状菌、細菌を死滅させることができるとされています。
しかしながら、そこまで高温にならなかったとしても、キュウリの苗立枯病を引き起こすピシウム菌と、リゾクトニア菌は40℃で4~5日間、42℃で12~24時間、45℃で30分~2時間で死滅します (吉本, 2000)。
温度計を土の中に差しておいて日中チェックしてみるとよいです。
種まき日
タネの向きをそろえて播いていきます。台木カボチャも同様に、同時もしくは1日遅らせて播きます。
種まきの詳細についてはこちらの記事を参考にしてください。
種まき後から発芽まで
土の温度を28℃にしておくと、キュウリは3日目、台木カボチャは4日目に発芽してきます。
発芽してきたら土の温度を23℃ほどに下げます。
もし、発芽予定日の夕方になっても発芽してこない場合は土を掘ってタネを確認してみて下さい。
もし夜間や被覆した状態で発芽すると写真のようになるので、土の温度を下げてできるだけ朝発芽するようにします。
接ぎ木前の管理
キュウリと台木カボチャの胚軸の長さが合うように管理していきます。水をあげれば胚軸は伸びるので、接ぎ木3日前頃からは水やりを控えて調整していきます。
夏場だと、どうしても水をやらざるを得ないので胚軸が伸びがちになります。
接ぎ木前日
接ぎ木した苗を植えるポリポットの鉢の地温を28℃に温め始めて翌日に備えます。水分が少ないようであれば前日までにしっかりあげておきます。
接ぎ木当日
土が乾燥している場合は、朝かん水後にキュウリと台木カボチャを掘り上げます。
①まず、台木カボチャの本葉と生長点を取り除きます(取り除かないとカボチャの蔓も伸びてきてしまいます)。
②そして台木カボチャは斜め下に切れ込みを入れ、キュウリは逆に斜め上に切り込みを入れます。
この時に使うのはカミソリです。切れ味が大事なので新品を使います。
③そして、しっかりと合わせてクリップで抑えます。
使用しているクリップはこちら
接ぎ木はこれで完了です。
これをポットに植えていきます。ポットに植えるときは台木カボチャが中心に来るように植えます。
その後かん水をたっぷりし、地温28℃にして、湿度を逃がさないようにかつ、暗くなるように覆いをして養生します。
接ぎ木2、3日後~
順調ならば傷口がくっついてくる頃なので、だんだんと遮光を外し、光に慣らすと同時に、換気も行い湿度も下げていきます。
かん水も行い発根を促します。
接ぎ木6日後
キュウリの軸を指で潰します。
次の日にキュウリの胚軸を切るのでその前につぶして慣らしておくためです。
キュウリの胚軸は角ばっているので、触るとわかります。
接ぎ木7日後
キュウリの軸を切ります。前日に潰しておいた部分をハサミなどで切り、完全にカボチャの根から養水分を吸収させます。
接ぎ木がうまくいっていないと、萎れる株が出てきます。
接ぎ木の失敗例
例えば、カボチャの軸の切り込みが浅いと、キュウリがカボチャの根から養水分を吸えません。
また、クリップの押さえがゆるいと傷口同士が癒着しません。
軸切り7日後
10.5㎝のポットで本葉3枚が定植適期となります。
根がしっかりと回っていれば、定植するときに崩れません。
おわりに
接ぎ木の場合、台木と穂木の親和性を考える必要があります。
加えて、例えばトマトだと、台木と穂木のTMV抵抗性の遺伝子型を揃える必要があります。
そのため、どの台木でも合うというわけではありません。栽培する品種(穂木)によって台木を選択する必要があります。
その一方で、幸いキュウリの場合は、どの会社が出している台木と穂木の組み合わせでも大抵うまくいきます。
樹勢が強くなりすぎるということも基本的にありません。
養生に手がかかりますが、接ぎ木に挑戦してみてはいかがでしょうか?
参考文献:
高橋英生. 1998. “接ぎ木苗と自根苗,直まきでの生育の違い.” In 『農業技術大系』野菜編第1巻追録第23号, 農山漁村文化協会, 基309-基312.
橘昌司. 2012. “2 )ブルーム.” In キュウリの生理生態と栽培技術, 誠文堂新光社, p.52.
吉本均. 2000. “土壌消毒の方法.” In 『農業技術大系』野菜編第10巻追録第25号, 農山漁村文化協会, 基85-基90.
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